自らコンパスを開発し作った村越真氏。日々、大学教授として教壇に立つ傍ら、ナヴィゲーションのファンタジスタとしても活躍中。オリエンテーリング選手としても世界で活躍した村越氏がコンパスの歴史、うんちくなど、シリーズでお送りしていきます。

ミニマリストコンパス　Ra-shinがうまれるまで　　　　　　　　　　　　　村越　真

直進をする機会はどれくらい？

2001年以来、読図講習で多くの方と接してきました。そこで必ず言われる言葉が「コンパスの使い方がよく分からない。コンパスが使えるようになりたい。」ところが、よく聞いてみると、彼らの多くが身につけたがっているのは、ベースプレートを使って設定した方向にまっすぐ進む「直進」という技術でした。確かに直進はシルバコンパスを代表とするベースプレートコンパスだからこそのテクニックです。でも、日本の山野で登山者が直進を必要とする場面がどのくらいあるでしょうか。おそらくコンパスを使うべき機会の1％にも満たないはずです。

私自身、年間コンパスを参照する機会は1000回を優に超えるでしょう。しかし直進をするのは年間で数回あればいいほうでしょう。シルバコンパスは林の中を自由に進むことのできる地形・植生のスカンジナビアで、精度の高いナヴィゲーションのための道具として生まれたのです。

vol.2 コンパスへの思いが3つのパッケージに

vol.3 Ra-shinの使い方

本来のコンパスの使い方を

持っている道具のスペックを最高に引き出すテクニックを身につけたい、これは当然の欲求だとしても、その副作用として本来のコンパスの使い方が身につかないのでは本末転倒です。実際、山岳遭難の40%を占める道迷い遭難の一定数は、コンパスの基礎的な使い方を身につけていれば間違いなく防げたはずです。日本の遭難対策史の転機となった愛知大学山岳部の薬師岳遭難も、コンパスの適切な使い方を知っていれば防げたことでしょう。それはこのRa-shinですら可能であったはずです。

シンプルなコンパス　Ra-shin

日本という環境に適したコンパスの使い方をまず身につける。それがシンプルに導かれるコンパスが必要だ！講習を通してそう考え、それに最適なコンパスとしてシルバ社のマイクロレーサーを数年使ってきましたが、廃版になってしまいました。特別に頼んで１ロット作ってもらったりしましたが、それもできなくなりました。もともと子どものオリエンテーリング学習用のマイクロレーサーを登山で使うと、不都合なこともいくつかありました。それらを改良して作成したのがRa-shinです。

頼りなく思えるかもしれません。しかし、日本の普通の山行で必要な機能は十分備えています。もともとベースプレートコンパスがオーバースペックだったのです。いわば高性能のロードレーサーのようなもの。自転車を乗れない人がいきなりロードレーサーは買わないでしょう。まずはままちゃりで自転車の乗り方を覚え、自転車を漕ぐ気持ちよさを知ることでロードレーサーの真価も分かります。まずはこの「ままちゃり」でコンパスの必要場面とありがたさを実感してみてください。ベースプレートコンパスを買うのは、それからでも遅くないはずです。

(2016.8.17)

vol.2　ミニマリストコンパスRa-shin1 コンパスへの思いが3つのパッケージに